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お稲荷こんこん

第2章 ばあちゃんのこと

ついでだからと、おっちゃんの軽トラで駅まで送ってもらった。
持っていけと、シールとキーホルダーをごっそりと持たされて。

駅までの道すがら、おっちゃんは前を向いたまま。
珍しく笑ってない顔で言った。
「りんちゃんよ。出来ればちょくちょく帰ってきてくれんかの。作家さんは忙しいとは思うんじゃけどなあ…」

駅の待合室に座ると、スマホを取り出しメールを打つ。
何だかんだとお土産が多くなったので、諭吉に車で待機しててもらおうと。
ふと気付いて、スマホの裏に貰ったシールを貼ってみた。
うん…妙に可愛い。ご利益を期待しよう。

以前の私なら、ご利益などと言われてもピンと来ないだろうが。
今の私は、信じてみたい気分なのだ。
お狐様の声を聞けた今なら…。

帰りの列車は急行で。
普通よりは速いけど特急ほどでは無い。
色々と考えて思いを巡らせる時間として丁度良い…そんな気がして。

座席に座ると、窓に頭を預けて。
さっきのおっちゃんの言葉を思い出す。

先月、診療所で集団健診があり。おっちゃんは世話役として取り仕切っていた。
検査結果はそれぞれ個人宛に通知されるが。
ばあちゃんの結果が、少し気になる…と。
いくら世話役でも、親族じゃないから詳しくは教えてもらえないけど。

ばあちゃんに聞いても、大丈夫としか言ってくれんのじゃ…。
ばあちゃんのことだから、りんちゃんにもよう言わんかもしれんが…。
一応、気に掛けててくれんか。


ばあちゃん…
いろんな事を教わって出来るようになっても…
終わりなんてことは無いんだよ。
ばあちゃんの代わりになんて…なれないんだから…

ぎゅっと抱きしめたばあちゃんは
暖かくて優しくて…小さかった…。

スマホに貼ったシールをそっと撫でる。


お稲荷こんこん すっこんこん
お揚げ炊けたか 味見しよ…

お狐様、ばあちゃんを守って…

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