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お稲荷こんこん

第3章 それからのこと

諭吉は改札の向こうで待っていた。
パーカーにジーパンというラフな格好。
私を見つけると軽く手を上げて。
何だよ、まるで待ち合わせてた恋人を見つけたみたいな仕草だな。

改札を抜けてスーツケースを預けると、やっと身軽になり…はあ…と溜息をつく。
諭吉は車のドアを開けて。
「おかえりなさい。お疲れ様っす。」
おいおい、何だよ。まるで出所した兄貴分に挨拶してるみたいだな。

やれやれと思いながら、助手席に座る。
「ねえ、私服ってことは今日は休みだったの?」
「そうっすよ。別に先輩に合わせたんじゃなくて、たまたま予定が今日で。…まあ…予定は…無くなったんで…いいんすけどね…」

ハギレが悪いな諭吉。
昔の経験から、こんな時は大抵女絡みなので…聞かないであげよう。

マンションに着くと、スーツケースを諭吉に任せて階段を先に駆け上がる。
先輩、重いっすよ…微かに諭吉の声を聞きながら部屋に入り窓を開けて。

東京のそれなりの青空を眺めて。
また日常が始まるのだと思う。

諭吉がやっと辿り着くと、ぜえぜえしてスーツケースを運びこむ。

「ご苦労様、ありがとうね。」
労いの言葉と共に冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、諭吉に投げる。
キャッチした諭吉は一気に飲むと、ソファーにもたれて。

その間、奥の部屋で部屋着に着替えて出てきたら。
諭吉は紙袋の中のお土産を見つけて。
「何すか、このキャラは。狐…かな。へえ…お札なんだ…シールになってるのか…」
面白そうに見てるので、キーホルダーを諭吉のジーパンから伸びるウォレットチェーンに付けてやった。
「これはね、ご利益があるんだよ。このシールもね。スマホに貼っとき。きっと良い事があるよ。」
「マジすか? もう、最近は良い事なんてサッパリ無くて…今日だってもう…」

信じる者は救われる。
取り敢えず、そういう事にしておこう。

諭吉は新聞紙の包みも見つけて。
何だか、いい匂いがするっす…。

私は机に向かうと諭吉に背を向けたまま。
留守の間のメールや郵便物をチェック。
「それはお稲荷さん。良かったら食べていいよ。」
包みを開ける音がして。
「いいんすか? おお、美味そう。いただきまーす」

チェックしたメールの中に、マンションの管理会社にから。
そろそろ更新かあ…。

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