お稲荷こんこん
第3章 それからのこと
一度机に向かうと、やる事が次々と見つかって。
なかなか手が止まらない。
キーボードを打ちながら、頭では別の事を考えて喋る事もよくあるのだ。
「ねえ、諭吉。今やってる季刊誌のエッセイと書評…それくらいだよね? あんたのとこで止まってる企画とか無いよね?」
「ん…無いっす…ん…ん…」
ん…が多いのは、お稲荷を食べてるんだな。
「それならいいわ。暫くの間、他には入れないで欲しいのよ。勿論、他社の仕事も入れないから。」
くるりと椅子を回して振り向く。
諭吉は指を舐めながら、二本目のお茶を飲んでた。
「先輩、何かあったんすか? 」
高校の頃は、私は寮で諭吉は自宅組。
部活の中でみんな仲は良かったけれど、お互いの家庭の話などは特にしてはいなかった。
私は諭吉に、自分の生い立ちみたいなものを話した。
ごく普通の家庭で育ったであろう諭吉には、あまり現実味がないのか。
まるで小説のテロップを聞くように、いろんな表情をしながら私の顔を見つめていた。
「何て言うか…その…先輩…凄いっす…いや凄いって言うか…ああ…語彙が少ないな、俺は…」
情けなさそうに頭をかく諭吉。
「いや、いいのよ。何も凄い事なんて無い。色々と有り過ぎてこんな人間が出来ちゃっただけ…」
私も頭をかきながら苦笑する。それしか、言いようが無いから。
「まあでも、俺の見て来た先輩がそれで変わる訳じゃないすから。これからも、変わる訳じゃない…」
納得したようにうんうんと頷いた。
ああ…まるで恋人の秘密を全て受け入れる心の広い主人公のようだぞ、諭吉。
ありがとう…と言いかけて、丸めた新聞紙を見つけた。
「あんた、お稲荷…全部食べちゃったの?」
確か、10個近くはあった筈だけど…。
「いやあ、めっちゃ美味かったっす。もう、止まらなくて。ご馳走様っす。」
そう…それは良かった…。
無邪気に言う諭吉に、それは私が作ったんだと言いそびれて…。
結局、私のお稲荷は合格だったかどうかは…ばあちゃんに聞くしか無いらしい。
諭吉が帰りひとりになると…
気が抜けたように、ドッと疲れに襲われて…
ソファーに倒れこむとそのまま眠ってしまった。
なかなか手が止まらない。
キーボードを打ちながら、頭では別の事を考えて喋る事もよくあるのだ。
「ねえ、諭吉。今やってる季刊誌のエッセイと書評…それくらいだよね? あんたのとこで止まってる企画とか無いよね?」
「ん…無いっす…ん…ん…」
ん…が多いのは、お稲荷を食べてるんだな。
「それならいいわ。暫くの間、他には入れないで欲しいのよ。勿論、他社の仕事も入れないから。」
くるりと椅子を回して振り向く。
諭吉は指を舐めながら、二本目のお茶を飲んでた。
「先輩、何かあったんすか? 」
高校の頃は、私は寮で諭吉は自宅組。
部活の中でみんな仲は良かったけれど、お互いの家庭の話などは特にしてはいなかった。
私は諭吉に、自分の生い立ちみたいなものを話した。
ごく普通の家庭で育ったであろう諭吉には、あまり現実味がないのか。
まるで小説のテロップを聞くように、いろんな表情をしながら私の顔を見つめていた。
「何て言うか…その…先輩…凄いっす…いや凄いって言うか…ああ…語彙が少ないな、俺は…」
情けなさそうに頭をかく諭吉。
「いや、いいのよ。何も凄い事なんて無い。色々と有り過ぎてこんな人間が出来ちゃっただけ…」
私も頭をかきながら苦笑する。それしか、言いようが無いから。
「まあでも、俺の見て来た先輩がそれで変わる訳じゃないすから。これからも、変わる訳じゃない…」
納得したようにうんうんと頷いた。
ああ…まるで恋人の秘密を全て受け入れる心の広い主人公のようだぞ、諭吉。
ありがとう…と言いかけて、丸めた新聞紙を見つけた。
「あんた、お稲荷…全部食べちゃったの?」
確か、10個近くはあった筈だけど…。
「いやあ、めっちゃ美味かったっす。もう、止まらなくて。ご馳走様っす。」
そう…それは良かった…。
無邪気に言う諭吉に、それは私が作ったんだと言いそびれて…。
結局、私のお稲荷は合格だったかどうかは…ばあちゃんに聞くしか無いらしい。
諭吉が帰りひとりになると…
気が抜けたように、ドッと疲れに襲われて…
ソファーに倒れこむとそのまま眠ってしまった。