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お稲荷こんこん

第3章 それからのこと

狗鈴…狗鈴…

霧がかかっているような、モヤモヤとした中で。
私を呼ぶ声がする。
ああ…ちゃんと覚えているよ、お狐様…。

手を伸ばすと、キラキラ光る銀の尻尾に触れた気がして。
その感触を忘れないように、優しく撫でた。

お狐様、ばあちゃんは大丈夫なの?
何処か悪いのかな…
ちゃんと確かめた方が良いのは解ってるんだけど…

モヤモヤの中から、徐々にお狐様の姿が現れて。
子供のようにうずくまってる私を包んでくれた。

怖がるな狗鈴…
ばあは自分の定めを受け入れているのだ。
他者がどうする事も出来ない。
勿論、我も同じ…
我はただ共に居て、見守ってやるだけ…

もうお前は我の姿も声も感じる事が出来るじゃないか…
ばあと同じく、お前の事もこうして共に居る…
怖がるな。心を静かに…な。

お狐様っ…

自分の声で、目が覚めた気がした。

私の手の中にはキーホルダーが握られて。
それを朧気な視線で見つめてると…。
一瞬、ぼんやりと光った気がした。

そしてまた、私は眠りに落ちた。

次に目覚めたのは、もうお昼近く。
むくりと起き上ると、改めて握っていたキーホルダーを眺める。
いつの間に、持ってたんだろう…。

お狐様のマスコットは、柔らかい布やフエルトで出来ている。
傷付けないように調べてみたが、何も余計なものは付いていなかった。

光るギミックは、無い…。
光った気がしたのは気のせいか…?

説明のつかない不思議な事は…
どこまでも不思議なままだから。
きっとそのままで構わないんだろう。

第一、お狐様の声が聞こえるなんて他人に言っても…きっと信じてもらうのは難しい。
それでいい。
どうして聞こえるかなんて、納得出来る説明なんて出来ないんだから。

漫画やアニメにあるような
ポンと現実世界に姿を現したりしたら
取り敢えず、夢じゃないのだと理解出来るかもしれないけど…

自分で自分の考えに可笑しくて笑った。
寝起きの頭で考えるのは、こんなアホみたいな事なのだ…。

頭の次に身体が目覚めてくると、きゅるるとお腹が鳴った。

ああ…お腹空いた。
お稲荷、食べたかったなあ…。



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