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お稲荷こんこん

第3章 それからのこと

それからの私は、頭の隅に常にばあちゃんを置いて過ごす日々となった。
大下のおっちゃんに連絡先を伝えて、何かあったら知らせてくれるように。

そして勿論、お狐様にもお願いする。
ばあちゃんに何があったら、どうかお知らせくださいと…。

気休めかもしれないが…いつも持ち歩く鞄にキーホルダーを付けて。
「まるでセコムっすね」
正直な感想を言う諭吉だが、私が付けたキーホルダーやシールはそのまま。
それは自分へのご利益を期待しての行為なのは明白である。

ばあちゃんと頻繁に連絡を取れればいいんだけど。
家の中でもジッとしないので、電話に気付かない事が多い。
ずっと前に買ってあげたガラケーは持ってるけど、つい色んな場所に置き忘れる…。

それよりも気を配るのは…
今までと違う行動や言動で、私の心境の変化を悟られちゃいけないってこと。
それでばあちゃんに心配をかけるなんて、本末転倒だもの。

仕事を減らせば収入だって変わる。
明日から困る訳では無いけれど、自分の生活を見直す機会かもしれない。
締め切りに追われれば、なりふり構わない生活で神経も心も擦り減らす。
メンタルは割と強い方だとは思うけど…不死身な訳じゃないから。

断捨離とまではいかなくても、何が必要で何が不要なのか。
ちゃんと考えてみよう。

「…それで何で俺が呼ばれるんすか…?」
諭吉はブツブツ言いながら、ゴミ袋を持ってうろついている。
古くこじんまりした2DKだけど、案外片付け始めるとそれなりな量になるのを発見。
一人より二人でやった方が、捗るじゃないか…。
これでも気を遣って、就業中ではなく休日を選んだんだから。

「だから…どうして俺の大事な休日が先輩に使われないと…」
「あっ、それは燃えないゴミだから。間違えないでよ…」
「はいはい。全くもう…」
「文句言わないのよ。私とあんたの仲じゃないの」
「編集者と作家…すか? 」
「そうそう、肉体関係も無い清く正しい間柄ってことよ。何か問題でも?」
「…ありませーん…」

やっと諦めた諭吉が、スピードを上げる。
動く度に、チェーンに付けられたお狐様がゆらゆらと揺れている。


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