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お稲荷こんこん

第3章 それからのこと

優秀な編集者のおかげで、私の部屋は思いのほかスッキリと片付いて快適になった。
寝室の半分くらいを占領していた大量の本を減らして、約三分の一に。
資料の類いは電子書籍にして。文明の利器って素敵。

妙に身軽になったような気分で。
いきなりだけど、ばあちゃんに会いに行ってみようと決めた。
大下のおっちゃんからの連絡によれば。
特に変わった事は無いが、最近は昼寝の時間が長くなっているとのこと。
身体がしんどいのだろうか…。

まずは顔を見て、それからだ。

お狐様は、まだ夢に出て来ない。
便りが無いのは無事な証拠…てことか。
何も無くても、出て来てくれていいのに。
まるで、恋する乙女のような台詞。
…ん…我ながら気持ち悪い…。

明日ばあちゃんに会いに行くと、諭吉にメールをする。
一応、行動は知らせておこう。

了解っす。お土産は要らないですから。お稲荷さん、めっちゃ美味かったけど…。
諭吉からの返信に思い出した。
ばあちゃんから、まだ感想を聞いていないのを…。


次の日は、サラリーマンのように朝早く出発した。
今日の気分は特急だ。
早くばあちゃんの顔が見たいから。

座席に着くと鞄を膝に乗せる。
キーホルダーのお狐様を撫でるのは、もう無意識の行為になっていた。
今度こそ、奥の間に入るんだ…。

まず先に、診療所に寄った。
先生に会って話を聞けば…モヤモヤした不安は現実になる。
心臓の調子が一番の問題であるが、その他の場所も満遍なく弱っている。
薬を出しているが、中々飲んでくれないと…先生は困った顔で。

まさか、お狐様が治してくれるとか思ってるんじゃないだろうなあ…。
別の不安を感じながら、家に向かった。
知らせずに突然帰った私に、ばあちゃんは驚きもせずに出迎えて言った。

お狐様が言うておったからの。
何やらりんが慌てて会いに来るって。

のんびりとした口調でケラケラと笑う様子はいつものばあちゃん。
でも、心なしか少し小さくなったように見えるのは私の気のせいか…。

「慌てて来たよお。この前のお稲荷の感想をまだ聞いてなかったから。気になって仕方無かったんだから…」
そう言うと、お茶を差し出すばあちゃんが不思議そうな顔で言った。
「この前のお稲荷…? 何やったっけ…?」

「えっ…?」 そのまま絶句してしまった。








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