お稲荷こんこん
第3章 それからのこと
「随分とポンコツになってしもうて。何だか情けないよ、りん…」
ばあちゃんは泣き笑うような顔で呟く。
少し動くと身体がしんどくて、この頃は物忘れをするようになったと。
「ばあは…もうこの世では御役御免なのかねえ…」
「やめてよ、ばあちゃん。そんなあっさりと諦めちゃ困るわ。」
達観したような言い方に、少し強めに言ってみる。
「ちゃんと私やお医者の言う事を聞いて大事にしなさいって…お狐様だって言ってたんだから。」
この際、嘘も方便。ごめんね、お狐様。
「おや、りん…。お狐様と会えたのかい?」
「そりゃあもう。ばあちゃんの時みたいに絵から抜け出てはくれなかったけどね。人の姿にもなったんでしょ?」
そういえば…と思い出して聞いてみた。
お狐様が人の姿になると、どんな感じなんだろう。
「それはなあ…お狐様が人になったんじゃなくて。人に入った…て事じゃな。狐は人に憑くもんだからの…」
「そうなの? それって誰に憑いたの?」
意外な答えに興味シンシン。
「それは、じいさんだわ。じいさんはお堂のお札を巾着に入れて首から吊るしての。肌身離さず持っておったから。」
少し遠い目をしたばあちゃんは、思い出したのか嬉しそうな顔に。
私は想像してみた。
仄かな明かりに照らされた奥の間で、じいちゃんの身体を借りたお狐様と談笑するばあちゃんを。
和やかで穏やかな時間…。
「凄いねえ。いつか私も、そんな風にお狐様と話せたらいいのに…」
「こればかりは…ばあちゃんにはどうにもならんなあ。お狐様にしてみれば、やっぱり男の方が入りやすいみたいだし…。今時、お札を身に付けてるような者もおらんしの…」
「まあね…。」
そりゃそうだな、と納得する。
夢の中よりもはっきりとお狐様の声を感じられたのは、私が持ってたキーホルダーのせいなのか。
お札を持った人の代わりに、せめてもの憑代にしてくれたのか…。
少し休むよ…そう言ってばあちゃんは布団に横になった。
枕元には診療所からの薬が置いてある。数を確認するとちゃんと飲んでるようで少し安心する。
次の日、大丈夫だからというばあちゃんの言葉を信じて、戻ることにした。
玄関で手を振ってたばあちゃんは、いつものように笑っていた。
ばあちゃんは泣き笑うような顔で呟く。
少し動くと身体がしんどくて、この頃は物忘れをするようになったと。
「ばあは…もうこの世では御役御免なのかねえ…」
「やめてよ、ばあちゃん。そんなあっさりと諦めちゃ困るわ。」
達観したような言い方に、少し強めに言ってみる。
「ちゃんと私やお医者の言う事を聞いて大事にしなさいって…お狐様だって言ってたんだから。」
この際、嘘も方便。ごめんね、お狐様。
「おや、りん…。お狐様と会えたのかい?」
「そりゃあもう。ばあちゃんの時みたいに絵から抜け出てはくれなかったけどね。人の姿にもなったんでしょ?」
そういえば…と思い出して聞いてみた。
お狐様が人の姿になると、どんな感じなんだろう。
「それはなあ…お狐様が人になったんじゃなくて。人に入った…て事じゃな。狐は人に憑くもんだからの…」
「そうなの? それって誰に憑いたの?」
意外な答えに興味シンシン。
「それは、じいさんだわ。じいさんはお堂のお札を巾着に入れて首から吊るしての。肌身離さず持っておったから。」
少し遠い目をしたばあちゃんは、思い出したのか嬉しそうな顔に。
私は想像してみた。
仄かな明かりに照らされた奥の間で、じいちゃんの身体を借りたお狐様と談笑するばあちゃんを。
和やかで穏やかな時間…。
「凄いねえ。いつか私も、そんな風にお狐様と話せたらいいのに…」
「こればかりは…ばあちゃんにはどうにもならんなあ。お狐様にしてみれば、やっぱり男の方が入りやすいみたいだし…。今時、お札を身に付けてるような者もおらんしの…」
「まあね…。」
そりゃそうだな、と納得する。
夢の中よりもはっきりとお狐様の声を感じられたのは、私が持ってたキーホルダーのせいなのか。
お札を持った人の代わりに、せめてもの憑代にしてくれたのか…。
少し休むよ…そう言ってばあちゃんは布団に横になった。
枕元には診療所からの薬が置いてある。数を確認するとちゃんと飲んでるようで少し安心する。
次の日、大丈夫だからというばあちゃんの言葉を信じて、戻ることにした。
玄関で手を振ってたばあちゃんは、いつものように笑っていた。