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お稲荷こんこん

第4章 これからのこと

それは、突然やって来た。
いや、突然では無くて…静かに確実にそれは近付いていたのだ。
夜が明けて朝を知らせる光に空が満たされた時。
眠ってる私は、ふいに名前を呼ばれた気がした。

そして次の瞬間に、携帯が鳴った。
ハッとして手を伸ばして掴むと、それは大下のおっちゃんからだった。

ばあちゃんが入院した…。

私は飛び起きて支度を始めた。
わたわたと身なりを整えながら、落ち着け落ち着けと心の中で唱えていた。
今はまだ…大丈夫だから…。

始発近くの特急はまるで貸切みたいにガランとしてて。
私は座ると忘れないうちに諭吉にメールを送る。
今書いている原稿がまだ少し残ってるが、締め切りには間に合うようにすると。

駅に着いてタクシー乗り場に向かう途中で、またおっちゃんから着信。
救急車で隣町の病院に運ばれたけど、本人がどうしても嫌だと言って村の診療所に戻って来たと。
そんな事が許されるのは逆に…。

診療所の前には、おっちゃんの軽トラが停まっていた。
待合室に入るとおっちゃんが居て。
「りんちゃん…来てくれたんか。すまんの、早くに電話してしもうて…」
「そんな…ありがとう、おっちゃん。かえって世話かけて…ごめんね。」

病室に入ると、ばあちゃんは何事も無いような顔で眠ってる。
「ばあちゃんがお堂の前で倒れとったのを、新聞配達のもんが見つけての。知らせが来て救急車呼んで行ったんだが…。ここは嫌じゃ帰りたいと、まあ暴れそうな剣幕で。それで先生に来てもろうて戻ってきたんだわ。」

如何にもばあちゃんらしい。
りんちゃんが来たなら大丈夫と、おっちゃんは笑って帰って行った。
私は何度もお礼を言って頭を下げておっちゃんを見送った。

先生に聞いてみると…。
もう心臓がかなり弱くなっていて、いよいよ腹を括って覚悟をせにゃならん…らしい。
覚悟ならばちゃんと…と思っていたのに。
やっぱり、モヤモヤとした重い気分になる。
鞄に付けてるキーホルダーを、ぎゅっと握りしめる。

このままばあちゃんの傍に居たら、泣いてしまうかもしれない…。
それは絶対にだめな気がするから。
あとは先生に任せて、今夜はばあちゃんちに帰ろう。
お狐様にも会わなきゃ…。



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