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お稲荷こんこん

第4章 これからのこと

家に戻ってまずした事は、全部の部屋の掃除を。
ばあちゃんの割烹着を借りると気合いが入って。

暫くしていなかった様子は、体調の悪さを想像させる。
無心に掃除する事で、私自身の気持ちを落ち着かせ整えようとしていた。

掃除を終えると、花を摘みながら裏の墓へ。
やはり綺麗に掃除をすると、線香を焚いて手を合わせて。

母さん、じいちゃん…
もう少しだけ待って…お願い…

さて、次はお堂だ。
きっとばあちゃんは朝のお務めの時に倒れたのだろう…。
お堂の扉を開けると、そこはいつものように整えられている。
他の事はしんどくても、このお務めだけは頑張ってたんだね…ばあちゃん。

そのまま奥の間に入る。
ぼんぼりを灯して正面に座って。
キーホルダーを両手で握り目を閉じる…。

お狐様…出て来て…
どうしたらいいか…教えて…

部屋を照らすぼんぼりの明かりが、一瞬揺らめくと。

狗鈴…
もう特別な事は何も必要は無いのだ…
最期まで傍に居てやればいい…

お狐様も最期まで見守ってくれるでしょ…?
傍に居てくれるでしょ…?

ああ…
いつだって我は共に居る…
ばあも狗鈴も、我の大事なものだ…
なのでな、もしもばあが何か望む事があればきっとそれを叶えてやってくれ…

私にだってばあちゃんは一番大切。
きっと叶えるよ…約束する…

ばあちゃんとの別れが、ついにカウントダウンされ始めたようで…
少し胸が騒ついた。

おや…? …ん…ほお…なるほど…

ふと目を開けてキーホルダーを見る。
どうしたの? お狐様…?

いや…そうか…大丈夫だ、狗鈴。
もうすぐ来客だ。家に戻っていなさい…。

お狐様にお礼を言ってお堂を出る。
来客って…おっちゃんかな。

家に戻って、居間で大の字に寝転ぶ。
ばあちゃんに頭を蹴られる感覚を思い出す。
涙が滲みそうになり、大きく深呼吸する。

すると、表で車が停まる音がして。
聞き覚えのある、間延びした声が。

「ごめんくださーい。」

がばっと起きて急いで玄関を開けると。

「有給余ってるんで、来ちゃいました。」

そう言って軽く敬礼する諭吉だった。

「あんた…どうして…?」
まさか来るなんて思っていなかったから…私はきっと素っ頓狂な顔をしていたんだろう。




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