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お稲荷こんこん

第4章 これからのこと

どうやら思考が戻ってくると。
傍に近づいて、周りをグルグルと回っては細かく観察をした。
どこか外見で違う所があるかどうか…。

「おいおい…。何を狗のように嗅ぎ回っておる。」
私がうろうろしてるので動けずに、呆れるように胡座をかいてる諭吉…いや、お狐様。

どうやら外見の違いは無いようだ。
強いて言えば、何となく気配が違う…としか言いようが無い。感覚の問題で。
やっと正面に向き合うと、少し改まって聞いてみる。

「お狐様がじいちゃんに憑いたっていうのは聞いていたけれど…。どうして、今また?」
「それはな。ばあにちゃんと伝えたかったからじゃ。ばあのおかげで、我は今までこうして安泰に居られたんだからの。だから、後は心配するなと…な。」
お狐様になった諭吉は、少し表情が大人っぽく落ち着きが漂う。
お狐様の気持ちが嬉しくて有難い…。

「でも…お狐様が憑くのは誰でも良い訳じゃないでしょ? 初めてここに来た諭吉に…どうしてです?」
ああ…それはな、と笑顔で。
「お前、こやつに札を授けただろう? 何かにつけてこやつは願をかけてきての。あまりに必死なんで、その信心を我も信じてやろうと思うて。試してみたら、すんなりよ。こやつは…邪気のない男だなあ…」

確かに…。そう、良く言えば素直で正直。裏を返せば迂闊で残念なヤツ。
そして、私にとっては大切な後輩で優秀な仕事仲間なのだ。

「因みに…諭吉はお狐様に何をお願いしたの?」
「何やら日課のように色々とな。一番多かったのは…彼女が欲しい…だったかの。まあこれは、本人の行い次第だから…と言っておいてくれ。」
はっはっはっ…と笑った。

情けない願掛けだが、それもひとつの信心。
そのおかげで、お狐様が憑いたなんて。
「お狐様が憑いてるのは、諭吉自身は認識出来ているものなの?」
「いや、本人は解らぬ。その間の意識は封じておるから…」

なるほどね…。
ならば、諭吉には言わないでおこう。
何故って? …その方が面白い気がするから。

「狗鈴…何やら企んでる顔じゃの…」
「やあだ、お狐様。そんな人聞きの悪い…」
ほっほっほっ…とお狐様のように笑った。

不思議な事は不思議な事として受け入れる。
それで、いいのだ。

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