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お稲荷こんこん

第5章 新たなこと

「ばあちゃん、いい顔しとるのお…」
朝一番に来てくれたおっちゃんは、ばあちゃんの顔を眺めてしみじみと言った。

「おっちゃん、今まで色々とありがとうね。それと、一通り終わるまでお世話になります」
私はお礼とお願いをひっくるめて、お辞儀をした。

「解っとるよ、りんちゃん。いい仕事させてもらうでな…」
その後は診療所の先生とおっちゃんと共に、これからの段取りを打ち合わせる。

先ずはばあちゃんを家に連れて帰りたいと、診療所の車で向かった。
家の前で、諭吉と何人かの村の人達が待っていた。
挨拶とお悔やみを受けながら、みんなでばあちゃんを居間に運んで寝かせたら…。

布団の周りにズラリと座り、泣き笑いながらばあちゃんの思い出話が始まった。
ばあちゃんは、村の人達に大事にされていたのを実感する。

そんな人達にばあちゃんを任せて、私と諭吉はおっちゃんと一緒に役場に。
人の終い支度というものは、様々な手続きがある…。

焼場は隣町にある。
おっちゃんが仕切ってくれて、明日に決まった。

バタバタと動きまわり、やっとばあちゃんの枕元に帰って来たのは夕方頃。
諭吉と二人、くたりと座りこんだ。

「メールに書いてあったものは、全部持って来ましたから…」
諭吉が鞄から取り出すのを確認しつつ、蝋燭と線香を付けて。
「何だかさ…じっとしてたら泣きそうになるからさ…やる事一杯あって…紛れたよ…」
独り言のように口から出た。相手が諭吉だから、少し気が緩んだのか…。

線香の煙が、ゆらりと揺れた。

「狗鈴、大丈夫か…?」
あっ…と思って諭吉を見る。あの笑顔があった。
お狐様だ…。
「うん…うん…大丈夫。ちゃんとやる事やらないと、ばあちゃんに怒られちゃうからねえ…」
静かに横たわるばあちゃんを見た。
笑顔になろうとしたけど、上手く出来ない。
出来ないと思ったら、何かがこみ上げて来そうになる。

そっと手を伸ばして私の頭に触れた諭吉…いや、お狐様が静かに言った。
「もう…泣いても良いのだぞ、狗鈴。堪えなくていい…」

その言葉に、一気に感情が溢れ出す。

ばあちゃん…
ばあちゃん…

私は、思い切り声をあげて…泣いた。

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