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お稲荷こんこん

第5章 新たなこと

翌日は、抜けるような青空になった。

役場で手配した霊柩車とマイクロバスで、焼場に向かう。
元々、親戚も少なくて付き合いも殆ど無い。
後でハガキ一枚で知らせればいい程度のものだ。
なので、一緒に行ったのは診療所や役場や村の…ばあちゃんが普段お世話になっていた何人かで。

綺麗な花に囲まれたばあちゃんに最期の挨拶をして、手を合わせて見送った。

澄んだ青空に向かって、煙は真っ直ぐ昇って行く。
私は外に出て見守った。
そしてばあちゃんは、白い箱に収まって私の手元に帰って来た。
おっちゃんが手配してくれたお坊さんに読経してもらったら…。
ふう…と肩の力が抜けて、無事に完走出来たような感覚になった。

さあ、ばあちゃん…家に帰ろう。

マイクロバスで戻ると、お堂の前には人だかりが。
ばあちゃんを待っててくれたのかと車を降りたら、ちょっと様子が違う…。

お堂の前には結構な広さの花ござが敷かれ。
おじさん達は酒を運びこみ、おばさん達は様々な料理を持ち込んで。
私の背後から、おっちゃんが声を掛けて。

「ばあちゃんは賑やかなのが好きだったからの。みんなで飲んで食って送ってやるのがいいんじやないかと思うてな。村の衆に声を掛けたわけだ」
お帰り、りんちゃん…みんなが笑顔で口々に言う。

ああ…きっとこれがばあちゃんらしい送り方なんだ、と納得して。
私はお堂の扉を開けると、みんなに見えるように祭壇の前にばあちゃんを置いた。

「何か…いいっすね。俺、先輩が居ない間に村の人達と随分と仲良くなったんすよ。」
諭吉はそう言うと、人達の輪に入り手伝い始めた。

その様子を見て思い出す。
この前作ったお稲荷がある…。
急いで家に入るとそのまま台所に。

作った全部を大皿に盛ると運びこんだ。
お堂の祭壇にも供えて、手を合わせる。
ばあちゃん、お狐様と一緒に食べてね…。

丁度支度が整った頃には、学校帰りの子供達も加わって更に賑やかに。
ランドセルを置いて料理を見回してた男の子が、お稲荷を見つけた。

「わあ、お稲荷さんだ。もーらい…」
ひとつ手に取ると、パクりとかぶりつく。
もぐもぐしながら、持ってるお稲荷をマジマジと眺めて…。

「ばあちゃんだ…。ばあちゃんのお稲荷さんだ…」


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