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お稲荷こんこん

第2章 ばあちゃんのこと

物心ついた私も、母親と同じように。
ばあちゃんからお堂のお世話の仕方をしっかり習った。
お水やお花のあげ方、物の置き方、お祈りの言葉…。
私にとってはお世話してるというより、壮大なおままごとのようで。
何の苦でも無く楽しかったのだ。

でも、まだ子供だった私はなかなか奥の間には入れてもらえなかった。
いくら守り人の孫でも関係無く、特別な日以外はダメだった。

でもね、ダメって言われると気になるのが人間てもんでねえ。
鍵をこっそり持ち出して、そっと奥の間に入ってた。
私としては、ばあちゃんの目を盗んでるつもりだったけど…。
きっとばあちゃんは知ってたんだろうなあ。

そこは、ちょっと空気が違う気がした。

昼間は、高い明り取りの窓からの光だけで…お狐様の絵がぼんやりと浮かぶ。
嫌な事があった時や気持ちが騒つく時、ここに居るとやんわりと心が解けるような気がするのだ。

つい、うたた寝をすると。
必ず夢の中にお狐様が出てくる。
綺麗な銀の毛並みをなびかせて、大きな身体で子供の私を包んでくれるような。

狗鈴…と呼ぶ声が聞こえ、守られているのを実感する…そんな気分になり。
目覚めると、その声が思い出せなくて少し悔しく思う…。

村を離れるまでの私にとって、奥の間で過ごす時間は不思議で大切な時間だった。
大人になったら、お狐様の声がちゃんと覚えられるだろうか。
そう思いながらも、大人になると日常に紛れて。
奥の間で過ごす時間は少なくなってしまったのだ。

昔、ばあちゃんが言っていた。
まだじいちゃんと共にお世話をしていた頃。
奥の間で、お狐様とお話したと。

お狐様が絵から抜け出して、尻尾を揺らしながら床に座っていて。
ばあちゃんが淹れたお茶を、美味そうに舐めたと。
せっかくのお茶がこの姿では飲みにくい…そう言うとお狐様は姿を変えて。
楽しい時間を過ごしたと。

さすが大人は夢も凄いな。
真剣に話すばあちゃんを見ながら、子供心に感心してしまった。
それを見透かしたように、ばあちゃんは付け加えて。

りんは夢だと思ってるかもしらんけど…
ばあもじいも、霊感だの何だのはありゃしないんだよ。
それは全て、お狐様が選んでお姿を見せて下さってるんよ。
有難いことなんよ、ほんとに。

ばあちゃんは両手を合わせて言った。

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