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小さな妻

第5章 4.はじまり

「するよ……キミのオナニーみたいな」

決死の覚悟で吐き出した言葉だった。

生まれてはじめて《女性》に対して積極性を発揮した瞬間だった。

しかし言ってすぐに後悔し、美優のリアクションをひどく恐れた。


次の美優の言葉を判決を待つ被疑者のような気分で待った。

私の放った今の一言を、彼女が母親に言ったとしたら、きっと警察に相談するだろう。

そうしたら「犯罪者」が一人誕生することになるのである。


「じゃあ、見せ合いっこする?」と笑顔で美優が言ったとき、私は安堵と喜びで気が狂いそうになった。

そしてそれが、それまでの私がこれまで歩いてきた1本の道から、違う道に方向を変えた瞬間だった。

もう一つの私の人生のはじまりがそこにあった。


私は美優の肩に手を回し、ベッドのある部屋へと歩き始めた。

美優がそのとき私の顔を見てなにかを促すような表情をし、私はそれが何かを瞬時に悟り、彼女にキスをした。

生まれてはじめての風俗嬢以外とのキスが、12歳の小学生だったことに、情けなさと勝利を同時に感じた。


――12歳の少女の唇とその周辺は、大人の風俗嬢のものとは全く違う。

皮膚はハリがあるというよりも、むしろ硬いと言った方が正確かもしれない。

唇の周りには産毛があり、まるで桃を食べているようだ。


風俗嬢のように洗口液の香りはもちろんせず、駄菓子を食べたあとのような《生物》らしい香りがした。

私がこれまで抱いてきた《風俗嬢》という人種は、セックスのための商品であることがこのときに理解できた。

彼女たちは「生きた玩具」なのだ。


香水と消毒薬と洗口液と、過度に清潔に処理された体と服と部屋は、お客から金をむしり取るためのアイテムに過ぎない。

生身の人間、生活をしている人間とはこんなものなのか?と、私は《本物の女》をそのときはじめて知ることができたのだった。


ただ、そのあまりにもリアルな目の前の生身の生き物は、私の脳のスイッチを「性的モード」から遠ざける。

恋愛初心者の私にとって、目の前の課題はあまりにもレベルが高い。

恋愛やセックスなどというものは、意外にもこんなものなのだろうか?

激しくお腹が空いているときに、やっと食事がとれたときのような、完全なる喜びはそこにはなく、《恐怖》《不安》《現実味の無さ》といったような負の感情が喜びを上回るのだ。

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