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第3章 小麦の滴

「んだあ?この野郎!」
男は、興奮して、僕の襟首をつかんで詰め寄ってきた。

「やめて下さい」
僕はなるべく声を落として言う。
「うるせえ!てめえは何様だ!」
男が僕の頬をげんこつで殴り付けた。

ゴツッ!

と頬骨に衝撃がくる。

ーくそっ!こいつ!

僕だって男なので、殴られれば腹が立つ。
けれど、僕がやり返せば真琴さんに迷惑がかかってしまうかもしれない。


ーここは、我慢だ…

「てめえ、このやろう!」

ガッ!ガツッ!

しかし、我慢している僕の気持ちも知らないで、男は二度三度と続けて殴ってきた。

「やめてぇ!いやぁ!」
僕が一方的に殴られているのを見て、真琴さんが悲鳴をあげた。

ーぐっ、もうこれ以上は…っ!

男は酔っていて、加減をしらない。
頭に衝撃がくる。
このままでは僕はやられてしまう。
他に方法もなく、僕は男の手首をつかんで捻り上げた。

「いててっっ!何しやがる!離せっ!」

男がわめいて、暴れた。
と、酔っていたからか、腰砕けになって、そのままその場に倒れ込む。

「やめろぉ!離せぇぇ!」

図らずも、僕が男を上から組伏せた状態になった。

「助けてくれ!やめてくれ!」

男は劣勢になった途端、助けを乞い出した。

ーやれやれ、ひどい酒癖だな…

僕はそう思って真琴さんの様子を見た。
真琴さんは、地面にへたりこんだまま、僕と男の様子を見ていた。
その顔は怖かったのか、怯えた表情だった。

ーもう大丈夫、怖がらせてごめんなさい。

僕は真琴さんに、そう言って安心させてあげようとした。
ところが、その言葉を口に出す前に、僕は、突然、背後から肩をつかまれてしまった。

「こら!何をしている!やめんか!」

「えっ?」

僕が振り返ると、そこには駐在所のお巡りさんが立っていた。

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