テキストサイズ

カントリーロード

第3章 小麦の滴

「助けてくれ!」
男が叫ぶ。

「やめろ!」
警察官が僕に向かって一喝する。

何が起きているのか、僕にはわからず、男に馬乗りになっていた。

「やめるんだ!」
警察官がもう一度僕に言った。
僕はとりあえず、男から離れて立ち上がった。

「だいじょうぶですか?柳田さん」
警察官が男に呼び掛けながら、手を差し伸べると、男はその手をとって
「ああ、助かったよ」
と言いながら立ち上がった。

「いったい何があったんですか?」
と警察官が尋ねると、柳田と呼ばれた男は
「こいつが突然押し掛けてきて、襲いかかってきたんだ。なんとか抵抗したがやられてしまった」
と言った。

ーなんだって?この酔っぱらいめ!
柳田の勝手な言い分に僕が腹を立てていると、警察官は柳田のことをよく知っている様子で、話続けた。

「ほう、それは大変でしたね、怪我はありませんか?」
「ああ、身体中が痛い。あいつをなんとかしてくれ」
「わかりました。とりあえず、駐在所にきてもらいます。おい、お前は何でこんなことをしたんだ?」

僕はこのとき
ー柳田は酒臭いし、僕は殴られて怪我をさせられているから、まさか、自分が悪者扱いされるなんて思ってもみない
状態だった。


「え…いや、その、女の人の叫び声が聞こえたので…」

「なに?それで押し掛けて暴力をふるったのか?」

「いや、困ってそうだったので…」

このとき、警察官の向こうで、真琴さんが悲しそうな顔をしているのが目に入った。

ーそうか、夫婦のことが警察沙汰になれば、真琴さんは余計に困るのかもしれない…

「困っていそうだったと言っていますが、そうなんですか、柳田さん?」

「いやあ、そんなことないですがねー。そいつの言うことを信じるんですか?なあ、俺達は特に困ったことはなかったなあ、真琴?」

柳田が、真琴さんに問い掛ける。
真琴さんは座り込んだままだ。
前髪が下りて表情はよく見えない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ