歪ーいびつー
第2章 小5ー夏ー
顔を覗き込まれているような気配を感じるけど、今の私には目を合わせる余裕などなく、コクリと小さく頷くのが精一杯。
「ちゃんと目を開けて歩かないと危ないよ。……ほら、夢」
言われて初めて気が付いた。
恐怖のあまり、無意識に目を閉じてしまっていたらしい。
確かに目を閉じたまま歩くのは危ないので……怖いけど……凄く、怖いけど。
薄っすらと目を開けると、徐々にその視界を広げてゆく。
ゆっくりゆくっりと、固く閉じていた瞼の力を緩めていると、ヒュンッと勢いよく何かが目の前を横切った。
突然の事に驚いた私の目は全開になり、左から右へと走り抜けていったモノは一体何だったのかと、無意識に目で追いかけてしまった私。
その視線の先にはーー
懐中電灯に止まる黒々とした変な虫。バタバタと動く気持ちの悪い羽根。
「ひゃっ……やぁぁー!」
大の虫嫌いな私は、今までずっと我慢していたせいもあったのか……ついに叫び声を上げると後ずさった。
そして足元にあった窪みにハマって体勢を崩すと、そのままドサリと尻もちを着いた。
もうこれ以上の我慢はできなかった。
とっくに限界は超えていたから。
「いやぁー……っぅ……こわい゛ぃぃ……ぅぅぅっ……おうちっ……かえりたっ……いぃぃ……」
限界を超えた私はとうとう泣き出してしまった。
泣きたくなんかないのに。
こんな姿、皆に見られて恥ずかしいのに。
そう思うのに、一度泣き出してしまったら止められなくて……。
「……ぅ……こわっ……いよっ……ぉぉっ……ヴっ……こわいっ……ぃぃ~っ……」
怖い怖いと泣く事しかできなかった。