テキストサイズ

歪ーいびつー

第2章 小5ー夏ー



「ーー夢」

不意に涼くんから名前を呼ばれ、空へかざしていた貝殻から隣にいる涼くんへと視線を移す。

「この場所気に入った? 」
「うん」
「またいつか一緒に来たいね」
「うん、来たい」
「今日は時間なくて見れないけど、夜になったらここには沢山の蛍が集まるらしいよ。……凄く綺麗なんだって」
「……見てみたいなぁ」
「夢、夜にこの森入れるの? 」
「……」
「今日、お家に帰りたいって泣いてたね」
「……気のせいだよ」

小さな声で反論してみせると、アハハっと笑った涼くんは、「良く頑張ったね」と言って優しくポンポンと頭を撫でてくれる。

気が付けばもう、すっかりと周りは夕焼け色へと染まっていて……私達の姿もオレンジ色へと変えていた。
いつも見慣れている涼くんと違うせいなのか、オレンジ色に染まった涼くんは少し大人びて見える。

「夢……今日は泣かせてごめんね」
「……」
「もう絶対に泣かせないから」

困ったような、照れ臭そうなような……いつも見る涼くんとは少し違う微笑み。
だけどその瞳がやけに真剣だから、私は涼くんを見つめたまま……ただ黙って聞いている事しかできなくなっていた。

「……夢。……俺、夢が好き」

オレンジ色に染まった涼くんが優しく微笑む。

「夢は? 」
「……。……好き」
「……そっか」

そう言って一度私から視線を外した涼くんは、夕焼け色に染まった空を見上げた。

「じゃあ……両思いだね」

夕焼け空を見つめていた涼くんは、その視線をゆっくりと私へ移すと優しく微笑んだ。
その整った顔から作り出される優しい笑顔は、オレンジ色に染まっているせいなのか……いつもよりやけに大人びて見える。
まるで時が止まったかの様にその場で固まってしまった私は、涼くんのその綺麗な瞳から目を反らす事ができずに、ただーー静かに見つめ返す事しかできなかった。



ーーーーーーー

ストーリーメニュー

TOPTOPへ