歪ーいびつー
第4章 高1ー春ー
そのまま私の目の前までやって来た奏多くんは、机に置かれたままだった私の鞄を持つと、「帰るよ、夢」と言って私の手を握った。
表情こそ笑顔だが、なんだか握る力がいつもより強い。
「あっ……うん。じゃあ……皆また明日」
そう告げると、「夢ちゃんバイバイ」と皆が口々に答えてくれる。
私を連れて教室を出た奏多くんは、握った手をグイグイと引っ張って無言で歩いて行く。
「あ……っか、奏多くんっ」
名前を呼んでも振り返ってもくれない奏多くん。
そんな様子に少しの不安を抱きつつも、私はもつれそうになる足を懸命に動かして着いて行くしかなかった。
ーーその日の奏多くんは終始無言で、私の家の前まで着くとやっと口を開いた。
「夢、携帯出して」
「……え? 」
「携帯、早く出して」
奏多くんの口調が少し強まり、怖くなった私はプルプルと震える手で携帯を取り出すと、その瞬間サッと奏多くんが携帯を取り上げた。
手際よく携帯を操作する奏多くんは、何かし終わると私の掌へ携帯を返した。
「夢は良い子だね」
笑顔でそう告げながら私の髪を撫でると、「また明日」と言って帰ってゆく奏多くん。
その後ろ姿を少しの間見送った私は、自分の部屋へと着くと先程返された携帯の中身を確認してみた。
すると、今日交換した男の子達の連絡先が全て消されている。
「……どうして……っ」
携帯を持つ手が小刻みに震え出し、私はまるでその震えを抑えるかのように唇をキュッと固く結んだ。
ーーこの日、私は初めて奏多くんの事を怖いと感じた。