歪ーいびつー
第7章 ー5月ー
「夢ちゃん、これ……」
「……っ」
「こういうの……頻繁にされてるの? 」
楓くんに言われた言葉に、思わず固まってしまった私。
「夢ちゃんちょっと来て」と呼ばれた先で楓くんが差し出したのは、ボロボロになった悪口だらけの私の教科書だった。
「……」
「ごめんね。今たまたま机にぶつかったらこれが落ちてきたから……」
そう言って、悲しそうな顔をして私を見つめる楓くん。
「……夢ちゃん。奏多はこの事知ってるの? 」
その言葉に、私はフルフルと頭を横に振って答えた。
「でも……これって奏多の事が原因でしょ? 」
未だ楓くんの掌にある教科書には【別れろ! 】という文字が書かれている。
「そもそも夢ちゃん本当に奏多と付き合ってるの? 」
私の肩に手を乗せ、俯いてしまった私の顔を覗き込む楓くん。
「触るな! 」
ーーー!?
突然怒りを含んだ大きな声が教室中に響き渡り、驚いた私はビクリと小さく肩を揺らした。
恐る恐る声の聞こえてきた方に視線を向けてみると、そこには明らかに怒っている奏多くんがいた。
教室の隅で隠れるように話していた私達に近付くと、「夢に触るな! 」と言って楓くんの胸倉を掴み出す奏多くん。
その手をパシリと弾いて離した楓くんは、乱れた制服を直しながら口を開いた。
「……奏多さ、夢ちゃんが何されてるか知ってるの? 」
「っ楓くん!やめて……いいの、大丈夫だから」
楓くんの言葉に慌てた私は、楓くんの腕を掴んで必死にその会話を止める。
騒ぎでこちらに注目が集まってしまった教室で、私がいじめを受けている話しをされる事にどうしても抵抗があった。
慌てた私は思わず楓くんの腕を掴んで止めてしまったが、それがいけなかったのだと後に思い知る。
「おいで、夢」
そう言って私の腕を乱暴に掴んだ奏多くん。
そんな奏多くんに黙って着いて行く私を見た楓くんが、「夢ちゃん! 」と呼んでいたけど、私はその声に後ろを振り返る事はしなかった。
腕を掴む力で感じる……。明らかに怒っている奏多くんを、これ以上怒らせたくなかったからーー。