歪ーいびつー
第7章 ー5月ー
「……っ奏多くん。……痛いよ……っ」
「………」
掴まれた腕が痛くて訴えると、奏多くんはチラリとこちらを見ただけで無言で歩いてゆく。
そのまま空き教室まで行くと、私を壁にドンッと押さえつけた。
「……っ! 」
痛みに思わず目を瞑《つぶ》ると、次の瞬間唇に何かが触れた。
え……? な……に……?
一瞬、何をされているのか理解できなかった。
「……っん」
キスをされているのだと理解した私は、目の前の奏多くんを力一杯押し返した。
ーーいやだいやだいやだいやだ!! こんな事、好きな人としかしたくない!
そう思うのに、奏多くんは何度も角度を変えては私の唇を貪《むさぼ》るようにキスをする。
やっとキスから解放された時、私はボロボロと涙を流していた。
「……っグ……ぅっ……ぅ」
「夢、これは悪い子の夢へのお仕置きだよ」
優しく私の頬を撫でながら微笑む奏多くん。
私は一体何をしてしまったのだろうか……?
奏多くんが何に怒っているのか考えてもわからない。
楓くんとは昔から仲が良かったし、今日に限って何か特別な事をした覚えはない。
「さっき楓に触ってたね、どうして? 」
そう言ってニコリと微笑む奏多くん。
表情こそ微笑んではいるものの、その目は冷め切っている。
まるで私を責め立てるかのような瞳に射抜かれ、萎縮した私はコクリと小さく唾を飲み込んだ。
楓くんに触れるのなんて、そんな事今に始まった事ではない。
それでも今、目の前にいる奏多くんはさっき私が楓くんに触れた事を怒っているのだ。
何故、突然そんな事で奏多くんが怒るようになったのかはわからない。
それ以前に、最近の奏多くんは何を考えているのか全くわからないのだ。
「ごめっ……なっ……さい……っ」
気付けば無意識に口から出ていた謝罪の言葉。
目の前で冷たい視線を私に向ける奏多くんは、私がそれまで知っていた奏多くんとはまるで別人のように思えて……とても恐ろしかった。
「もう無理矢理されたくなかったら楓とは口を聞いたらダメだよ。勿論、触るのも触られるのもダメ……わかった? 」
奏多くんが怖くてたまらなかった私は、その無茶苦茶な命令に小さく頷く事しかできなかった。
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