歪ーいびつー
第10章 楓
「は? ……逃げてばかりって何? 」
俺の胸倉を掴んでいる奏多の手首を掴むと、そのまま奏多を鋭く睨みつける。
「お前は昔から他の女に逃げてばかりだろ? 」
そう言ってニヤリと微笑む奏多に腹の立った俺は、奏多の胸倉を掴み返すとその身体を壁に突き押した。
そのまま睨み合う俺と奏多。
「……本当の事だろ? 楓、お前は怖くて逃げてるんだよ」
「……っ! 」
拳を握り奏多を殴ろうとしたその時ーー
「やめてぇ……っごめんなさっ……私がっ……私が悪いのぉ……っ」
泣きながら俺と奏多の腕を掴んできた夢ちゃん。その手元を見ると、小さな手はカタカタと震えている。
「夢ちゃん、危ないから離れて」
俺が優しくそう告げると、夢ちゃんはフルフルと首を横に振った。
「だめっ……楓くっ……だめぇ……っ」
その場を離れようとしない夢ちゃんに、胸倉を掴んでいた手を離した俺は夢ちゃんに触れようとその手を差し伸べる。
「触るな! 」
夢ちゃんを抱き寄せた奏多が、怒りを滲ませた目で俺を睨みつけた。
「夢。わかってるだろうけど、もうこの二人とは関わったらダメだよ。わかった? 」
俺を睨みつけたままそう告げる奏多に、夢ちゃんは戸惑いながらも小さくコクリと頷いた。
「奏多! 」
「だめっ……ぅっ……ごめっ……んね……っ……優雨ちゃっ……かえっ……でくん……っ……」
止めに入ろうする俺にダメだと言って首を横に振る夢ちゃんは、悲しそうな顔をしてごめんねと謝る。
「お前達が夢に関われば俺は夢に罰を与える。それが嫌なら夢には関わるな」
冷めた瞳で俺と優雨ちゃんを交互に見た奏多は、吐き捨てるようにそう言った。
「夢は俺の言う事だけを聞いていればいいんだよ。……じゃあ、帰ろうか」
愛おしそうに見つめて夢ちゃんの髪を撫でた奏多は、再び夢ちゃんを抱き寄せるとそのまま歩き出した。
「夢……」
ポツリと小さな声で呟いた優雨ちゃんは、俺の隣で静かに涙を流した。
その横で、俺は去って行く夢ちゃんの背中をただジッと見つめていた。
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