歪ーいびつー
第12章 優雨 3
「夢……」
目の前で静かに眠る夢を見つめながら小さく呟く。
その姿は、以前に比べると心なしか痩せたように見える。
あの一件以来、私がここまで夢を間近に目にするのは久しぶりだった。
いつも遠くから見かける夢は悲しげな顔をしていて、その顔からはすっかりと笑顔が消えていた。
それでも私は、ただ遠くから見守る事しかできなかった。
私が夢に近付けば夢が酷い事をされる。
近付きさえしなければ、夢は平穏な毎日を過ごせるのだから。そう信じて……。
でも、それは間違いだった。
昼休み、夢は学校で倒れて保健室へと運ばれた。
心も身体も限界だった夢に気付いてあげられなかった自分が悔しい。
こうして倒れるまで、夢は一人で耐えていたのだ。
「っん……」
夢の頬にそっと触れると、夢は小さく声を漏らしてゆっくりと瞼を開いた。
「優雨……ちゃん……? 」
私を視界に捉えた夢が、戸惑いながらに小さく口を開く。
そんな夢に向けて優しく微笑むと、夢は声を上げて泣き出した。
「もう嫌だっ……もう嫌だよぉぉ……っ」
「夢っ……もう大丈夫。絶対に夢から離れないから」
夢を抱きしめると、慰めるようにして優しく背中を摩《さす》ってあげる。
「大丈夫、大丈夫だよ……」
そう何度も耳元で告げた私は、夢が泣き止むまでずっと、そうして抱きしめていたーー。