歪ーいびつー
第13章 ー6月ー
「はい、夢ちゃん」
ニッコリと微笑んで裁断バサミを差し出す楓くん。
明日の昼までにハチマキを提出しなければいけなかった私は、今日の内に終わらせて提出しようと放課後残って作業をする事にした。
昨日の約束通り、今日は一日中ずっと私の側にいてくれた楓くん。
朝は家まで迎えに来てくれて、休み時間とお昼休みは私と過ごし、放課後になった今もこうして一緒にいてくれるーー。
昔からいつでも優しかった楓くん。
昨日告げられた楓くんの言葉に、私は今すぐどうこう答える事はできなかった。
だって私の心には今でも涼くんがいるから……。
私の目の前で小首を傾げて優しく微笑む楓くん。
こんなに優しい楓くんとずっと一緒にいられたら、きっととても幸せなんだろうと思う。
「ありがとう」
裁断バサミを持って来ていなかった私は、楓くんから借りると作業を開始した。
「夢ちゃん上手だね」
そんな事を言いながら、嬉しそうに私を見守る楓くん。
暫くすると、朱莉ちゃんがジュースを抱えて戻って来た。
手に持ったジュースを私と楓くんに渡すと、すぐ横の席に座って残りの缶ジュースを二つ、机の上に置く。
「優雨ちゃんは? 」
そう尋ねると、先生に捕まったと笑って答える朱莉ちゃん。