ー恋慕ーもしも死んだ愛する人が、生き返ったとしたら(短編)
第1章 ー恋慕ー
美希が戻ってきてから一カ月が経ち、俺もすっかり今の生活に慣れてきた。
家に帰れば笑顔で美希が出迎えてくれ、俺達は一緒に夕食を取り、夜は美希を抱きしめて眠る。そんな日々。
俺は手に持った小さな箱を見て微笑んだ。
今日は美希と付き合って十年目の記念日。
高校の同級生だった俺達は、俺の一目惚れで交際をスタートさせた。
イチゴの乗ったショートケーキを嬉しそうに食べる美希の姿を想像すると、俺はケーキの入った箱を持って家へと急いだ。
家の近くまで行くと、急に周りが騒がしくなる。嫌な予感がした俺は、家へ向かって走り出した。
そこにはたくさんの人集《ひとだか》りと二台の消防車が止まり、俺の住む木造アパートが燃え上がっていた。
「ーー美希! 」
俺は人集《ひとだか》りを押し退けると家の中へ入ろうとした。
「君! 危ないから下がって! 」
「美希が! ……美希が中にいるんだ! 」
制止を振り切ると急いで自分の部屋へと向かう。
美希っ……美希っ……!
無事でいてくれ……っ!
燃え盛る炎の中、俺は自分の部屋へ入ると美希を探した。
「美希! ……美希! 」
「京ちゃん……」
微かに聞こえた声に目を凝らすと、そこには泣きながら蹲《うずくま》る美希がいた。
俺は美希の元へ駆け寄ると、その小さな身体を優しく抱きしめた。
「美希、もう大丈夫だよ」
「京ちゃん……」
泣きながら、震える手で俺を抱きしめ返した美希。
美希が俺の元へ戻ってきた日、美希は俺に言った。
この家から出たら私は消えてしまうーーと。
俺は腕の中にいる美希をキツく抱きしめると、美希の耳元で囁いた。
「……大丈夫。もう美希を一人にさせないよ」
俺は抱きしめている身体を少し離すと、目の前の美希を見つめ、その唇に優しくキスをした。
「……愛してるよ、美希」
俺はそう告げると、美希を見つめて優しく微笑んだーー。