Melty Life
第1章 告白
自分の仕組んだ緊急避難訓練は、見込んだ通り、パニックを招いていた。まだ大半残っていた帰宅部の生徒らも、部活を中断した生徒らも、現時点では訓練だと知らされていない。火災はフェイクだったのだとグラウンドで知らされた彼らがこのあと暴動を起こさないか、懸念される。
恨むなら生徒会長を恨め。あの男とその友人が先走った真似をしなければ、自分はこんなことをしなくて済んだ。
「押さないっ。順番通りに!大丈夫です、今、生徒会に状況を確認してきますからね!」
逃げろと指示を受ければ逃げて、これが正しいと導かれれば、そこに従う。極めて善良で、安全性の高い習性だ。
少女が階段の踊り場の近くに出ると、生徒らに揉まれる教師の前方に、見知った二年生達がいた。線の細いいかにも真面目そうな少年と、身体中をアクセサリーで飾ったいかつい金髪。顔も見たくなかった二人に加えて、彼らに守られるようにして逃げていたのは──……
「「「危ないっ!!!」」」
荒れ狂う嵐同然の人混みの中、示し合わせてでもいた風に、三つの声が一つになった。
少女は踊り場に滑り込んでいた。今や自分の安全を確保するのに夢中になった生徒達は、我先にと駆け降り続ける。そうした中、静かだったらズズッと音が立っていただろう不自然な調子で階段を下っていく少女が一人。足を滑らせたのだ。
蒼白な顔で少女に腕を伸ばすも行動が追いつかない優等生と劣等生の目の先で、少女は落ちてきた少女を受けとめた。