Melty Life
第1章 告白
そんな顔、しないで……。
下級生の少女は顔を背ける。そして机に置いてあった鏡を拾った。放送部員が置き忘れていったのか。
鏡を開くと、斜め後方の上級生とはまるで種類の違う容姿が映っていた。日焼けとは無縁の肌に、はっきりした目鼻立ち。扁桃型の目許は切れ長寄りで、通った鼻梁に薄い唇、透明マスカラとリップクリームのみつけた顔は、女子にしてはいなせだ。感じやすい女子生徒らが稀に好意を向けてくるのも、納得がいく。夏にショートヘアと呼べるまで切ってからは伸ばしっぱなしの黒い髪。無意味に可愛いこの学校の制服は、着せられている感じがすごい。
もっとも、チェックしたかったのは自分の顔の細部ではなくて……。
うん。大丈夫。さっきの行為の証拠は拭けてる。
「有り難うございました、先輩。急いでるんで、失礼します」
ドアノブに手をかけたところで、少女は初めて、裸体のすみずみまで知った上級生の、名前は知らなかったことに気づく。
廊下に出ると、一斉に避難する生徒らの波から轟音が響いていた。放送室と同じ、未練がましくチョコレートの匂いがする。どこからともなく。