Melty Life
第4章 崩壊
「やっぱり追いかけていれば良かったか、ごめん。飯田さんと別れてから気づいたなんて」
「千里。送って行って差し上げなさい。もうそろそろおばあちゃんが戻ってくるから、わしなら気にするな」
「そ、そうだね」
「来須くん、大丈夫だよ。道は覚えたから」
「ただでさえ俺についてきてくれた花崎さんに、そんな無責任な帰らせ方はさせられないよ」
千里は、昼間からすれば魔法にでもかかったように顔色が良くなっていた。それだけ彼にとって隼生の存在は大きいのだ。どこか挙動不審なのは、多分、驚きが後を引いているからだ。
水和は今しがた耳に触れた彼らの間に交わされていたニ、三の会話を反芻する。
── わしはお前と共に、来須の家から彼女を守るからな。
千里は、そこまで水和との将来を思い描いているのか。
こんな自分のどこに、この人はそこまでの価値を期待しているの。訝しくなる反面、目には見えない他人の想いが、驚くほど自然に水和の胸に浸透する。あの真面目で自我があるかも疑わしい優等生が、真剣な面持ちで胸の内を水和に明かした二月の午後を思い起こせば、それが決して軽々しいものではないことくらい疑う余地もない。真面目な少年の想いもあるじと同様、屈託ない情熱が維持しているのだ。
「理事長とは、いつもどんな話をするの?」
「友達みたいな話さ。見ての通り、俺の親族には珍しいタイプでね」
「本当に、大事に至らなくて良かった」
「花崎さんには本当に迷惑をかけたね。いや、考えようによっては得したのかも」
「それって?」
「好きな女性に、ちゃんと心配してもらえたんだから」