Melty Life
第4章 崩壊
家電が現実的な機械音を鳴らし出すと、父親はあかりに正座を命じた。
コンクリートの凹凸が脚に刺さって、位置をずらせようとあかりが腰を上げかけた時、父親が膝に重石を下ろした。娘が顔をしかめても、父親は顔色ひとつ変えないで、両手首を後ろに持っていってガーゼで縛る。あかりの動作を封じたガーゼの結び目を、別のガーゼが側の柱に固定する。
「愛嬌のないお前でも、そうして顔を歪めていると、少しはそそられるものがあるなぁ。いっそ朝までそうしているか……!」
「待って場所、……砂、痛くて……っ」
「冗談だ、洗い物を干す間は解放してやる。俺が風呂に入ってくる間、後悔しておくんだな」
鼻歌でも口ずさむ調子で父親が屋内へ戻っていった。
どんな痛みも辱めも、何だかんだしぶとい人間の身体の機能まで断てない。未だ恐怖も正常に覚えることが出来る。その事実があかりに痛みをもたらす。
いつまでこんな日々が続くの。何故、生かされてるの。
自分自身も守れない、みっともないほど愛されないのに、特定の人に恋い焦がれて、守りたいなど、あまりに無謀だったんじゃないか。あかりが立ちたかった場所に来須が立っても、文句は言えない。
目を閉じれば眠ってしまう。眠ってしまえば二度と目覚められない気がして視界を暗闇に巡らせると、家の敷地を囲う塀の向こうに、見覚えのある女の姿があった。二度と見かけることもないと思っていた、しかし彼女がここにいても驚かないほど、かつてあかりが最も親しんだ人物だ。
第4章 崩壊──完──