Melty Life
第5章 本音
ということを移動教室へ向かう途中、何とはなしに、千里は森本と田辺に話した。同世代の、それも限りなく千里と同じ条件で、思春期を共有してきた同級生達。
初恋やら劣等感やらと、森本達ならどう向き合うか。
掘り下げた意見を期待したのに、彼らの返事は軽かった。
「考えすぎだって、花崎さん、急いでただけじゃね?お前は本当に真面目だなっ」
「お前みたいなハイステータスなヤツがそういうこと悩むの、嫌味な。オレら泣くぜ」
「来須ぅ、落ち込むなよー。励ましに、オレらが今日は花崎さんとのランチ、セッティングしようか?おーい!はーなさー──…」
「わぁぁああああやめてくれーーー!!!」
田辺の口を抱き塞ぐ勢いで、千里は前方を歩く水和に呼びかける友人を取り押さえた。周囲が談笑の反響でどよめいていなければ、本当に本人の耳に届いていたくらいの大声だった。
生徒の群れの隙間越しに千里が目を凝らすと、水和が一度振り返っていた。
百伊達と楽げに会話している彼女は、もしかすれば感じていたかも知れない後方の不審な動きなど、気にも留めていない様子だ。安心しきって、友人達の話に頷いて、笑って、何か言葉を返している。千里にもあれだけの笑顔を向けたことがあっただろうか。あれだけ自然に、肩の力を抜いてくれていたことが。
やたら長く感じる午前中をやり過ごしたあと、千里はどっと疲弊していた。朝礼の行われる週明けでも、ここまで消耗したことはない。
一瞬だけ一人になりたい。
かくて千里は、いつだったか水和達の荷物運びを手伝った経路を歩いていた。森本と田辺から引き受けた買い物の内容を反芻しながら自動販売機へ向かっていると、目前を少女が横切った。
あまねく風がざわついて、千里の心臓が縮み上がる。
その少女のまとう存在感は、水和とは真逆の類なのに、彼女以上に、千里の内側に潜む穏やかな部分を責める。
例えようのない罪悪感に突き動かされるようにして、千里は目を丸くするあかりの前方に立ち塞がった。
小柄に見えて女子の中では背丈がある、髪も全く染めていなくてどこまでも清楚な顔立ちなのに、ずるいほど華やかな少女に呼びかけた。