Melty Life
第2章 初デート
「ちなみに、中身は?」
「リップグロス」
「おおっ、もしかしてこれ?」
「当たり。……すごっ」
「伊達に趣味がコスメ収集じゃないよ。女の子に贈る下心まる出しのプレゼントなら、予想つく。ふーん、やっぱこれかぁ。どうしよっかなぁ……可愛いよねぇ……」
自分が買うか止すかをまだ検討している段階らしい、穴が空くほど玲が睨んでいるのは、数日前あかりが行ったコスメショップの新作が紹介されたリーフレットだ。リップグロスは赤とピンクの二種類あって、赤にはゴールド、ピンクにはパープルのラメがハート型になって埋め込まれている。
つと、あかりは自分の席に集った四人中、二人が異様に静かなことに違和感を覚える。
眞雪とともかがノートを見直していた。周囲もほとんど勉強している。ホームルーム開始までの時間など、たかが知れているのに。
その、たかが知れた短時間が、学生にしてみれば貴重なわけで──……
「やばっ、テストだった。言ってよー」
「ぁわっ、もうこんな時間!」
玲がばたばたと席に戻って行った。あかりもノートを引っ張り出す。
試験一週間前に差しかかってから今日まで、水和を全く見かけていない。それまではさんざん演劇部の稽古を覗き見に行っていただろうという眞雪達の予想も、実のところは違った。
バレンタインデー以降で会えたのは、廊下ですれ違ったのを含めて五度程度だ。文科系の部に属する生徒には、何故か稽古を覗かれたくないという性質が共通している傾向があるし、水和自らが提案したデートの件も、未だ消化出来ていない。彼女の部活は土日も活動しているために、今のところ来須千里が、その恩恵を受けただけだ。