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Melty Life

第5章 本音




 おずおずと否定する知香は、やはりあかりのよく知る知香だ。

 感じやすくて柔和で、傷つきやすい。そこにいて欲しい時、そっと寄り添ってくれる。思わず抱き締めたくなる可愛い後輩。


「それだけじゃ、ないです」


 知香はあかりを好きだった。あかりが水和ばかりを追って、水和こそ自分の存在意義なのだと信じて疑わなかった頃、知香の言葉を聞いていなかったとしても、その目で気づいていたと思う。顫える声で、体温で。

 知香の優しさに縋りたかったこともある。楽になりたかったことも。


 楽な恋など想像つかない。



「今が幸せなんです」


 知香が晴々しい顔で言った。

 乗客のまばらな急行電車は、あかり達の会話が関心の対象になることもない。一日遅れの誕生日のお茶会で受け取ったばかりのプレゼントが、多少席を陣取っていても誰も顔をしかめない。


「私なんかを好きになってくれるのは嬉しいですけど、私は誰ともお付き合いしません。それが私の幸せです」

「寂しくない?」

「軽く聞き流して下さいね」


 知香があかりにすり寄って、遠慮がちに片手を重ねた。

 あかりは知香の俯きがちな横顔に、いつまでも続く安らぎに近い優しさを得る。悪戯にはにかむ知香は、あかりを横目に微笑んだ。



「あかり先輩に出逢えたこと。眞雪先輩達と仲良くなれたこと。それが私の、最高の幸せなんです!」







Melty Life ──完──

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