Melty Life
第2章 初デート
…──いらっしゃい、風邪ひくわ。私一人しかいないから、ね?ああ、運転手さん、悪いけど目を瞑っていて。
何が起きたか分からなかった。惨めな姿が、ついに近隣住民に見つかってしまった事実だけは理解した。
しかし実際、この寒さでは風邪をひく。受験も近いのに、ここでコンディションを崩しては、第一志望校のオープンキャンパスで見た上級生に二度と会えないかも知れない。
この状況下で尚、将来に希望をいだく自分を滑稽に思いながらも、あかりは窓の照明の消えた自分の家を確認すると、タクシーに進み寄って行った。
女の名前は小野田(おのだ)といった。年のほどは四十後半、町内に引っ越してきたばかりの一人暮らしの会社員らしかった。
小野田はあかりにコートを着せて、彼女の家に連れ帰った。拾った少女の冷えきった身体をさすりながらエアコンを入れて、風呂に入らせて、熱々のお茶を振る舞って、警察に相談するかを問うた。
あかりは首を横に振った。両親は咲穂を偏愛しているだけだ。寒さによる震えが止んで、小野田の手当てで生傷も少なくて済んだことが分かると、気持ちも随分、落ち着いていた。両親は本当にあかりを殺す気もないし、少し変わっているだけで、少なくとも一般家庭の子供に比べて不自由ない生活をさせてくれている。それは学校で同世代の少女達と話していても、明確だった。
それから小野田は、度々、あかりの様子を伺いに来た。全裸で庭に出されたことはもうなかったが、落ち着いて勉強したい時、時間をかけて風呂に入りたい時、温かいものを食べたい時、小野田はあかりにそのための場所を提供した。
第2章 初デート──完──