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Melty Life

第3章 春


 新入生歓迎会の本番のあと、あかりは演劇部の部室を訪ねた。

 水和を目当てに観た舞台は、一年生達に紛れてまで観ただけの──…それ以上の感動を、あかりに与えた。
 台詞自体は、おそらく台本に印字された時点では、何の変哲もなかったはずだ。それが彼女の表現を通すと、壮絶な力を持った生モノに変わる。

 スポットライトに照らされて、架空のひとときを生きる水和を見ていると、一瞬でも世界が綺麗でたまらなくなる。完膚なきまでの善とは無縁な人間世界の欠陥など、些細なものに感じてしまう。


 未だ興奮冷めやらぬまま、あかりは自ら買って出た演劇部員達の記念撮影のカメラ係を務めていた。


「はい、いきます。あ、杉浦さん、もう少し左に寄って」

「これくらい?」

「ありがと。うーん……水和先輩が、若干、隠れてるかも……」

「ああ、そうだね。ごめん、身長低くて」

「水和は小型だもんねー。おいで」


「じゃ、今度こそいきます。はい、チーズ」


 どこのリア充ショットだ、と言いたくなるほど自然な仕草で百伊が水和を自身の方へ引き寄せたところで、あかりはシャッターを切った。


 演劇部全員の集合写真が無事、撮れた。あとは各自スマートフォンなどで仲良し同士の写真を収めていくらしいので、あかりの役目はここで終わりだ。
 水和と同級生達以外はほぼ接点のない部員達が、万華鏡のようにくっついたり離れたりして記念撮影を楽しんでいる様子を眺めていると、三年生の女子部員達が近づいてきた。

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