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Melty Life

第3章 春








 入学試験の合格発表から、もう何度か足を運んだ私立淡海ヶ藤高校の制服に初めて袖を通した今朝、破裂しそうな心臓とはよそに真新しい気分で門をくぐると、心のどこかで期待していた新生活のビジョンは、知香(ちか)の中で崩れ落ちた。

 誰も自分を知らない。知っていたとしても、無害。

 つまり、知香と同じ新入生はほぼ初対面ばかりだと思い込んでいたのに、クラスの振り分けが発表されるや、目の前が真っ暗になった。およそ十ヶ月の受験勉強期間さえ無駄な努力だったのだと、打ちひしがれた。正確には、あの努力を引き換えにしてまで、中学校時代の延長線上の苦痛を手に入れたのだ。


 案の定、背を丸めて教室に入っていくと、見知った女子生徒達の粘着質な視線が、知香にまとわりついてきた。

 公立の中学校では女子達の頂点にいたそのグループは、下級生からの信頼も厚かった。けばいほどお洒落な女子達ばかりが所属していたが、彼女らは持ち前の人懐っこさで、教師らの小言もあしらっていた。
 対する知香は、とにかく同世代の生徒達とのコミュニケーションが不得手で、可愛いとかそういう類とはまた違う童顔がコンプレックスなのもあって、ファッション雑誌に手を出したこともなければアイドルを追いかけたこともない。
 ただ登校して夕方になれば下校していただけの知香を、日々優越感に酔っているような例のグループは、当然のように見下していた。



 名門進学校と呼ばれる高校でも、所詮、入学のための条件は、試験を通過することだけだ。

 中学校から全く変わらない(よく見ると顔などはより垢抜けた)女子グループは、やはり新たなクラスでも、リップクリーム一つ塗ろうとしない同級生を冷ややかな目で嘲笑っていた。

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