Melty Life
第3章 春
あかりはスマートフォンをカメラモードに設定して、百伊に差し出す。
こんなかたちで、こんなにも早く、水和とのツーショットが叶うとは思わなかった。
心の準備が出来ていないと言って辞退するほど、謙虚にはなれない。こんな機会は逃せない。
熱烈ファンどころじゃないもんね、と、百伊の隣で山下が意味深に口角を上げていた。
返ってきた液晶画面には、眩しいほど幸福な一瞬が残されていた。
今朝までなかった一枚。可憐ながらもみずみずしい美しさを放つ水和と、シャッター音が鳴る間際、水和のウエストにそっと腕を回したあかり。
「有り難うございます、笹川先輩。そうだ、もう片付けですよね?手伝えることありますか」
「いいよっ、さすがにそこまで甘えられない」
「いえいえ、今日無理矢理、関係者にしてもらったのはこちらですし」
「じゃあ今の写真、私のLINEに送ってくれる?片付けは、宮瀬さんは本当に気にしないで」
あかりは結局、水和達の好意に負けて、着替えを始めた部員らに気を遣ったのもあって、ひとまず部室を離れた。
新学期から二年生に上がるあかりは、本来、登校日ではない。帰っても問題ないのだが、諸々の興奮が未だ冷めやらず、水和とのツーショットを改めて眺められる場所を求めたいのもあって、あてどなく校舎を歩いていった。