Melty Life
第3章 春
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進級して、クラス以外ほとんど変わり映えしない通常授業が始まって第二週目の日曜日、ゆうやは生まれて初めて晴れ晴れしい気分で台所に立っていた。
生活感の有無は何とも言えない。
男二人が暮らす一軒家は、少なくとも陰気臭い。壁は所どころが剥がれて、絨毯やクッションもシミが目につく。調理器具はいつから使っているか不明だし、棚や冷蔵庫は常にがら空きだ。
暗いのは、電球が弱まってきているせいだけではない。
もっとも、食糧の乏しさに関しては、今朝に限って例外だ。
良い匂いが充満している。
昨晩から下拵えしたミックス野菜の入った卵焼きは焼きたてで、デパ地下の高級食材店で買ってきたウインナーをタコの形に切ったもの、ささみ肉のアスパラ巻き、以前モデル事務所の社長に付き合って行った総菜店で舌鼓を打った味に近づけたポテトサラダ、まだ日の昇らない内から焼いたローストチキンとトマト、レタスのサンドイッチ……。ちなみにサンドイッチの食パンは、パン焼き器を持ち合わせていなかったため、癪だが千里の家の家政婦に借りてきたもので焼いた。