Melty Life
第3章 春
「あの、……」
「震えてる」
「…………」
「お節介して、ごめん。入学早々、さんざんだね。先生に相談行く?」
「…………」
この人は、きっと人間の悪意をぶつけられたことがないばかりか、垣間見たこともないのだ。
知香は首を横に振る。
事情も知らない上級生に、助けたつもりにならせてたまるか。たった一度逃げられたところで、すぐまた黒い黒い渦に引きずり戻される。
善意にさえ屈折した妬みを覚えながらも、知香は彼女を拒めなかった。
本当に震えが落ち着くまで、抱き締め続けてくれていた。優しい言葉をかけながら、手を握ったり頭を撫でたり、何の義理もない上級生が。通り過ぎていく生徒達が何事かと言わんばかりの視線を送っていくのに、愛され顔の彼女にしてみれば、そんなものとるに足りないらしい。
対等な人間として接して欲しいという要求さえ、相手に迷惑をかけてしまう。
小学生からそうして自分を戒めてきたのに、知香は初めて、自分からアドレスを交換して欲しいと願い出た。どうせ親としか連絡しない、LINEなど持っていなかった。