僕は貴女を「お姉ちゃん」だと思ったことは一度もない。
第8章 入学式
…もうちょっと静かな場所に移動しないと…。
少しでも人の少ない場所、静かな場所を探してキャンパス内をウロウロする。
と、奥のほうからかすかにトロンボーンの音が聞こえてきた。もしかして、探してた吹奏楽部が練習してるのかも?
けっこう遠かったけど、音を頼りに少しずつ近づいていく。
古めかしい建物の角をまがった奥に、すこし開けた場所で、日よけの屋根とベンチが設置してある空間があり、そこで一人の青年がトロンボーンの練習をしていた。
後ろ姿で顔は見えてないけど、あの姿は絶対に中村君だ!
「中村君っ、今日の入学式、出なかったの?」
演奏の手を止め、体をひねってこちらに顔を向ける中村君。
「え?」
「今日の入学式…。ま、強制じゃないんだろうけど…」
「あぁ、出ても退屈なだけだしね」
「吹奏楽部、勧誘してないね?私けっこう探したんだけど、見つけられなくて」
「あーー……、うん、そう、だね。勧誘は、してないね」
そこで何か違和感を感じる。
「……中村君……。なんか、雰囲気変わったね?」
「あははははっ。石井、鈴ちゃん、だよね?」
「えっ?」
「どうも。中村翔太と申します。啓太の兄です」
「あ、え…と…お兄さん??」
恥ずかしいっ。私、人違いしたまま会話しようとして。顔がどんどん赤くなっていくのを感じる。
「年子なんだけど、小さい頃はよく双子と間違われてたぐらい似てるから、気にしないで」
お兄さんが優しくフォローしてくれる。