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てのひらの福袋

第2章 【死神】

 ミルアは、駆け出しの死神。死神界には、たくさんの死神がいて、それぞれに担当がある。病死担当の死神、事故死担当の死神、自殺担当の死神…。

 しかしミルアは、まだ自分の担当が決まっていない。なので毎日、違う死神の下について仕事を習う。

「先輩、今日はどんな人を殺すんですか?」

新品の鎌を両手で握りしめ、人間界を見回しながらミルアが尋ねる。

「はぁ……」

訊かれて、ため息をついたのはリク。諭すような口調で話す。

「いいか、ミルア。俺たちの仕事は【殺す】ことじゃない。死んだ者がさまよわないようにきちんと【導く】ことだ」
「え、だって昨日、シモン先輩は【殺す】って言ってましたよ」

驚いたような表情で、反論するミルア。

「…っ、またアイツか…。悪趣味なやつめ」

リクは、小さく舌打ちをし、呟いた。

 シモンは自殺担当の死神のうちの一人。欝になった人間の回復しかけを狙っては、死にたくなるようにふっかけて命を奪うのが趣味である。もちろん、自殺担当の死神が全てそういう趣味なわけではない。死んだ魂の元にやってきて、冥界へ案内するだけ、と淡々と仕事をこなすものも多い。

「あいつの言ったことは一旦忘れろ。今日は俺のやり方を教える」

そんなリクの担当は事故死。事故死の魂は、病死の魂や老衰死の魂と違って、心の準備が出来ていないものが多い。だから、説得に少々コツがいる。うまくやらなければ、きちんと冥界へ旅立てずに延々と暗闇をさまよい続ける魂が誕生してしまう。

「死は、死神の関わり方ひとつで、最後の救いにもなるし、永遠の苦しみにもなる。俺は死神の仕事に誇りを持っている。死んだものをさまよわせずにきちんと冥界へ送り届ける。安らかに眠れる場所へと導くんだよ」

そう言って、リクは優しく微笑んだ。

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