てのひらの福袋
第7章 【落としもの】
去年の文化祭。準備が予定通りに進まず、遅れを取り戻すため、普段より早い電車に乗ることにしたある朝。ホームで、電車を待つ私の前に並んでいたのは、濃紺のスーツを着たサラリーマン風の男の人だった。その人が電車に乗り込もうとした時、ポケットから何かが落ち、私はそれを拾って、声をかけた。
「あの、落としましたよ…」
拾ったのは、紺色のチェック柄のハンカチ。振り返った彼は、さわやかな笑みを浮かべて受け取った。
「どうもありがとう」
男性の髪型にはあまり詳しくないのだが、スポーツ刈り、というのだろうか、前髪だけが少し長めのベリーショットの黒髪。軽く日焼けした肌に、スクエアの黒縁メガネが似合っている。白いシャツに、ハンカチと同柄のネクタイを締めていた。後ろ姿から、もうちょっと年上を想像していたが、振り返った彼は自分と同じ高校生なんじゃないかと思うほど若くも見えた。
その日から、週に1度、毎週金曜日に同じ時間の電車に何度か乗ってみた。彼にもう一度会ってみたくて。別に、たった一度会っただけで、一目惚れしたとか、そういうわけではなかった。ただ、好きになりそうな予感はしたから、自分の気持ちを確かめてみたいと思った。だけど、全然会えなくて、いつの間にかそんなことも忘れて普段の日常に戻っていった。
そして、年度が変わり、高校生活最後の1年が始まる。始業式。最後の新任教師紹介で、列に並んでいたのは、あの日の彼だった。しかも、まさかのクラス担任。すごい偶然に興奮したけど、きっと先生は私を覚えてなんかいない、そう思っていたのに。
「山根さんって、半年ぐらい前に一度だけ会ったことあるよね?駅でさ、ハンカチ拾ってくれた…」
あの時と同じ、爽やかな笑顔で話しかけられた。
「あの、落としましたよ…」
拾ったのは、紺色のチェック柄のハンカチ。振り返った彼は、さわやかな笑みを浮かべて受け取った。
「どうもありがとう」
男性の髪型にはあまり詳しくないのだが、スポーツ刈り、というのだろうか、前髪だけが少し長めのベリーショットの黒髪。軽く日焼けした肌に、スクエアの黒縁メガネが似合っている。白いシャツに、ハンカチと同柄のネクタイを締めていた。後ろ姿から、もうちょっと年上を想像していたが、振り返った彼は自分と同じ高校生なんじゃないかと思うほど若くも見えた。
その日から、週に1度、毎週金曜日に同じ時間の電車に何度か乗ってみた。彼にもう一度会ってみたくて。別に、たった一度会っただけで、一目惚れしたとか、そういうわけではなかった。ただ、好きになりそうな予感はしたから、自分の気持ちを確かめてみたいと思った。だけど、全然会えなくて、いつの間にかそんなことも忘れて普段の日常に戻っていった。
そして、年度が変わり、高校生活最後の1年が始まる。始業式。最後の新任教師紹介で、列に並んでいたのは、あの日の彼だった。しかも、まさかのクラス担任。すごい偶然に興奮したけど、きっと先生は私を覚えてなんかいない、そう思っていたのに。
「山根さんって、半年ぐらい前に一度だけ会ったことあるよね?駅でさ、ハンカチ拾ってくれた…」
あの時と同じ、爽やかな笑顔で話しかけられた。