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狼からの招待状

第5章 化石の街

 ボブの髪が微かに揺れ、「ユノさんのご自宅に捜査は入らなかったそうですが」「弁護士から聞いた。今後は分からない、でも僕は薬物とは無縁だ」
 珈琲が2人のテーブルにきた。入れた砂糖をスプーンで掻き回しながら、「事務所は無関係でないはず。ユノさんは統括的なマネージメントの立場ですよね?」「その点では責任を負わないと…理事会で相談していく」ラスクを口にした。
 デニッシュをちぎる女性記者は、エンブレムのあるジャケットに、スカーフがわりのリボンタイ。顔立ちも女学生のようにあどけない。
 「だから、近くソウルに戻る。取材は事務所で受ける」「羨ましいです」「え…」「チャンミンさんはご婚約されたんでしょう? それでもご心配で、お見舞いに飛んで来る。純愛ですね」「そんなキレイな話じゃないよ、捜査だ薬物だって、ソウルにいられないから逃げてきただけで─」「そうでしょうか? 私もそういう恋愛がしたい」珈琲カップに顔を伏せた。
 大きな犬を連れた老夫婦が、ガラス張りの壁脇の歩道を行く。犬の真っ青な目、白い灰まじりの毛並み─
 「きみは…」胸ポケットから渡された名刺を出すより早く、「イ・ウンギョンです」頭を下げる。

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