テキストサイズ

狼からの招待状

第5章 化石の街

 ─幼女がはね除けていった絵本を拾い上げる。 ドレスと同じ色のヘアバンドの少女が、こちらを見て、にやりと嘲笑う挿し絵。(イ─ボンヌ…?)
 「ユノ兄さん?」訝しげな声に顔を上げると、「どうしたんです、絵本投げたりして」フライの弟分が、絵本を拾い上げていた。
 「何でもない」見まわすと、先程の親子はとうに姿を消している。
 「兄さん、顔が真っ青…。気分でも悪いんですか」「何でもないんだ」慌て立ち上がり、「今日は帰る…」「そうしてください。お気をつけて、ユノ兄さん」絵本を手渡された。「─オッパァ!(お兄ちゃん)」後ろから子どもの声。
 ユノに一礼して、輪になって座っている子どもたちのほうへ戻っていく。カード・ゲームをしているらしい。
 ため息をついて、改めて絵本を開く。砂漠の船の上で光る剣が振り回される絵、雪の平原を大きなトカゲに似た動物に跨がり、走りゆく絵─にやにや笑う少女の絵は幻のようだ……
 棚に絵本を戻し、階段を下りる。階段は螺旋階段。途中で早口の英語を囀ずるように言い合う子どもの一団と、すれ違う。
 入り口の自動ドアを通ろうとした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ