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狼からの招待状

第5章 化石の街

…痩せたせいか、口元に笑い皺。「寒かったら、云って─」車椅子を、風の吹いてくる方向にゆっくりと押す。
 行く手は視界が開け、彼方に黒い翼を広げたような森が見え、その狭間に横一線の灰色の海。
 …ドーバー海峡だとキム侍従は云った。─その侍従は屋上の扉の前まで、案内してくれた。
 「チャンミン」黙って車椅子から、ユノを見上げる。「─海。見えるだろ?」…霧に覆われているような水平線の色を、二人は眺めた。
 「チャンミン」「うん─」風に掻き消されそうな、か細い声…。
 「云ったけど、お前は事故で入院して」チャンミンの脇に座った。「今はリハビリ中だ…」首をかすかに、何度も動かす。
 「俺は」チャンミンの顔を見ながら、「スキャンダルで…薬物に、熱愛に、─」海からの突風。「決まってた仕事は全てキャンセル。CMも、降板」「…」「─違約金だけ残った。…イメージ、ダウン」「…」「活動自粛。グループは休業。充電─要は、引退だ」下を向くチャンミン。
 「俺には、才能がない」「…」「若さで誤魔化せる時期は過ぎた」項垂れるチャンミン。「後輩の俳優の顔が怖い、迫ってくる…」小さなため息。

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