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狼からの招待状

第5章 化石の街

腕輪を長めな袖から少し覗かせている。「壊れたおもちゃを投げた子どもです」砂いろのサマー・セーターのグレは辛辣だった。
 「壊れたおもちゃ、か…」ワインリストとメニュー表を整頓しながら云う、フライ。
 「ユノ先輩を遠ざけて、暴言を吐いたり」カトラリーを磨き、1本1本丁寧に引き出しに入れ、「おもちゃを独り占めの子どもそのもの…幼稚だ」 「全く。身勝手なご令嬢に恐れ入るよ」
 ─灯りの半分落ちた店の隅では、ジャスミンが床に屈み込むような姿勢で、モップをかけている─熱く掃除するオレンジいろのエプロン姿が、明るい髪とよく合う。
 「グレ。─お前いろいろ面倒見てやったのに」「挨拶ひとつ、ありません」…キャッシャーの脇で、伝票のデータ処理をしているマスター、薄いベージュのシャツに白ベスト。
 「お嬢さまって案外、礼儀知らずだからな」「常識も…、やっぱり温室育ち」─手を止めて、振り返り、「ワイン庫の棚卸し準備、今夜始めていいですか」「もう帰っていい…ジャスミン」「はい」カウンターにモップを片手に走り寄ってきた。 

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