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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

 「ショートカットで、テニスやってる彼女…ダブルス組もうって…それを」「あのひとが」グレが口を挟む─「きみの周りにいることで、誤解したわけだ」ボーイ見習いは、何度もうなずいた。
 「怖かったな」少女のような仕草で、首をかしげる。「髪赤くて、ミニのキュロットスカートで…けど、ラケットで殴られるんじゃないかと思った」「─相当怒ったね、彼女」「いろいろうるさく訊かれたって…『変なおばさんね。ああいうの趣味?』それで終わった」
 ─店内の音楽が止んだ。バー・カウンターのほうから、話し声とグラスを片付ける気配が届く。
 「ぼく。会うのもう…止めます」「会ってたの?」「追っかけされて気持ち悪いし…面倒。でもお金くれて」「かかわらないほうがいい」こくりと子供っぽい仕草で頷く少年。
 「これで彼女にご馳走して」札を数枚、渡す。 「でもフラれたし」「お詫びに食事おごる。そう云えばいい」「ええ…」ちいさい声で、返事した。
 


 (あ…)
数日過ぎた夜。
 (あのひと。…だ)

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