
狼からの招待状
第6章 風のなかの二人
〈デミアン〉の外壁に、蜥蜴のように張りつく、…黒いスカーフを頭に巻き、マスクに眼鏡。衿を立てた紺のポロシャツにジーパンの後ろ姿は、おじさんのよう…。
「失礼ですが」「─うえっ」ダミ声で叫び、飛び上がった。
「こちらにご用事ですか」頭を振って、また逃げようとする。
「待ってください」行く手をふさごうとした。 後ろから、短い悲鳴─近くのクラブから出て来た、ふたりの女性が立ち止まる。
歩道に1台のタクシーが寄って来た─おじさん風の小肥り女性は、ゴム毬が転がるような動きで、車のドアに体当たりした。
「あの子は辞めたよ…先週」バーテンは、炭酸水のボトルの栓を抜き、事も無げに云った。
「急にですか」「ああ」赤と黒のチェックの布巾を手に取り、「欠勤や早退けも多くてね、向いてなかったね」「他にトラブルは…」「うーん…。聞かなかったなあ」
「チーフ」新しく入ったらしいボーイが、裏の棚から呼ぶ。「いいかな」「はい…お邪魔しました」一礼して、バー・フロアを後にした。
テーブルや窓枠、細長い棚に、濃いオレンジや赤っぽい色調の花々があしらわれている。初秋の花らしかった。
「失礼ですが」「─うえっ」ダミ声で叫び、飛び上がった。
「こちらにご用事ですか」頭を振って、また逃げようとする。
「待ってください」行く手をふさごうとした。 後ろから、短い悲鳴─近くのクラブから出て来た、ふたりの女性が立ち止まる。
歩道に1台のタクシーが寄って来た─おじさん風の小肥り女性は、ゴム毬が転がるような動きで、車のドアに体当たりした。
「あの子は辞めたよ…先週」バーテンは、炭酸水のボトルの栓を抜き、事も無げに云った。
「急にですか」「ああ」赤と黒のチェックの布巾を手に取り、「欠勤や早退けも多くてね、向いてなかったね」「他にトラブルは…」「うーん…。聞かなかったなあ」
「チーフ」新しく入ったらしいボーイが、裏の棚から呼ぶ。「いいかな」「はい…お邪魔しました」一礼して、バー・フロアを後にした。
テーブルや窓枠、細長い棚に、濃いオレンジや赤っぽい色調の花々があしらわれている。初秋の花らしかった。
