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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

 …店を辞めるとは一言も云わずに、彼女にフラれたと、ぼやいていた…あどけなさの残るボーイ見習いの…
 「レイ兄さん。出勤日ですか」「お久しぶりです、レイ先輩」後輩のホストたちの挨拶に応えながら、外へ出る。
 路上にも、店の周りにも、人影はなかった。
 夜風が涼しい。歩道の角に男性デュオの大きなパネル。その前にブラウスにショートカットの若い女性が、サスペンダーの付いた、革のパンツの脚を交叉させて立っていた。
 向かいの路地裏から、ベージュのワンピースの細身の女性が、ロングの髪を揺らし駆け寄る。
 ボーイッシュな女性が笑顔になった。
 「レイ!」通りを隔てた公園の近く、タクシーを乗り捨てたリーダーが、こちらを見て片手を挙げる。



 地獄の闇のなかで光るようなメス─「被害者は睡眠薬を飲んだようです、アルコールも検出されました」「飲んだのか、…飲まされたのか」
 「チノ教授」
[剖検準備室]のプレートのある白いドアから、急ぎ足でグレが姿を現した。
 「うん。ご苦労様」遺体を凝視しながら、軽い口調のチノ教授。「資料館で深夜のニュースを聞いて…スマホの呼び出しも」「招集かけたのよ。来たの君だけ」

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