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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

おでこの瘤を濡れたハンカチで冷やしながら、プリント・トレーナーの青年が云う。
 「乱暴な奴も、いるもんだ」半ば呆れた口調のフライ…氷水でハンドタオルを絞り、青年に手渡した。
 ──物音に扉を開け、覗いてみると、小柄な少年が倒れ…息をせわしなく吐いている。助け起こすと、雨にぐっしょり濡れていた。熱があるようだった。擦り傷に血─  「まだ、子どもみたいに思えて」時折、唇を噛みしめながら、ジャスミンは話した。「休憩室で、手当てしようと…運んだんです」「おれが救急車呼ぼうとしたら、ひどく怯えて─」ハンドタオルで、顔を叩くように拭きながら、青年が後を続ける。
 「仕様が無いから、着替えと薬を僕は買いに出て」「水飲みたいって云うから、おれがカウンターに行ったら…」─瘤をさすり、「後ろをがっつんと…、棚の縁にここぶつけて」「戻ったら、リューが倒れてて」青年は恥らうように、下を向いた。 
 「ジャスミン。盗られたのは─」「リューの財布と僕のロッカーの服。それから、エビアンのボトルに冷蔵庫のパンです。…チョコバーも1本」フライが吹き出した。
 

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