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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

 「子供っぽくて、痩せっぽっちのちびっこ。それが、窃盗に傷害の犯罪者」「騙された僕。雨のなか、買い物に走った」 オープンキッチンから、肉を焼く香ばしい熱い匂い…
 「追加オーダー、する?」「好物食った。じゅうぶんだ」重ね着シャツの腹を撫でさする。
 「マスターから貰ったお見舞いのお金、まだまだあるよ」「そうか? 気前のいいマスター…また、食事しよう」鳩時計が、のんびりと鳴き、5時を告げる。 
 「雨のせいかな。夜みたいに暗い」─小走りの通行人の頭が見える小窓の向かいに、青ざめた灯りが、ぽっと点く。
 「デザートぐらい、とろうよ」「おれはコーヒーだけでいい…」云いながらも、壁のデザート・メニューを眺め、「ロシアケーキ…、甘いビスケットだろ?」赤い格子柄のチョッキ姿のウェイターが、皿を下げに来た。



 「甘い。コーヒーと合う」…もう1つ、ロシアケーキに手を伸ばしながら云う。
 「追加する?」ジャスミンが、紅茶碗から顔を上げて訊く。紅茶碗はぼってりとした厚みがあり、鮮やかな茶色…
 「もう─入らない」口にビスケットの欠片を放り込んだ。
 外は雨が止んだらしく、ぼうっとした霧のなかを、家路を急ぐ人が過る……


 

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